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NMNは糖尿病患者の認知を回復させ、ニューロンを保護する
BW
糖尿病になると、人の認知機能が低下する可能性は高くなる。科学者らはこの影響を、脳内のニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD +)レベルの低下と関連付けている。メリーランド大学の研究者は、糖尿病ラットにニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を投与してNAD+レベルを上昇させたところ、糖尿病誘発性の認知障害が改善され、予防された。この結果は、5月26日付のInternational Journal of Molecular Sciences誌に掲載された。
米国では、糖尿病に罹患している成人の割合は、2000年の約6%から2018年には9.1%に増加している。動物モデルとヒトでは、糖尿病が認知機能の低下による認知症のリスクを高めることを示唆するエビデンスが増えている。科学者らは、脳内のNAD+レベルの低下とこの認知機能の低下を関連づけている。米国では糖尿病患者が増加しており、この疾患の治療法がますます重要になってきている。
NMNはNAD+の前駆体であり、体内のNAD+レベルを上昇させるブースターとして働くことができる。科学者らは、NMNがラットの脳内のNAD+レベルを高め、糖尿病誘発性の認知機能低下を改善することができることを発見した。
今回の研究では、NMNの投与により、ラットの海馬(記憶に関連する脳の領域)におけるニューロンの喪失と糖尿病による認知機能の低下が共に抑制されることが示された。また、NMN治療により、糖尿病によって引き起こされたSIRT1タンパク質(細胞の健康維持に関与する)の減少が抑制され、細胞の『発電所』といわれるミトコンドリアの機能が維持された。
研究者らは、記憶に関連する海馬の特定領域であるCA1領域が、NMN治療を受けた糖尿病ラットでは、ニューロンのボリュームと数が増加していることを発見した。

(Chandrasekaran et al.. 2020 | International Journal of Molecular Sciences)

NMNを投与された糖尿病ラットでは、NMNを投与しないラットに比べて海馬のボリュームが増加した。このことは、NMNが糖尿病ラットにおけるニューロン生存を促進していることを示している。1=非糖尿病ラット;2=糖尿病ラット;3=非糖尿病ラット+NMN;4-糖尿病ラット+NMN。
この知見は、糖尿病ラットにNMNを与えると認知機能が向上することを実証した。科学者らは、ラットの認知機能をテストするために「Y迷路」(Y maze)と呼ばれる方法を使用している。この方法では、より優れた認知機能を持つ動物は迷路の新しいアームを探索することを好む。正常ラットと同様に、NMNを投与した糖尿病ラットは、糖尿病ラットよりも新しい腕の探索に多くの時間を費やしたことから、糖尿病ラットの NMNは糖尿病ラットの認知機能を改善した。

 (Chandrasekaran et al.. 2020 | International Journal of Molecular Sciences)

NMNが投与された糖尿病ラットは、NMNが与えられなかった糖尿病ラットよりも、Y迷路の「新しい」アームに多くの時間を費やしました。これは、NMNが糖尿病ラットの認知機能を維持することを示している。1=非糖尿病ラット;2=糖尿病ラット;3=非糖尿病ラット+NMN;4=糖尿病ラット+NMN。
他にも、NMNは細胞の発電所であるミトコンドリアにおける酸素利用反応が改善したことが明らかになった。これは、アデノシン三リン酸(ATP)という分子を介したエネルギーの生成がNMN治療によって改善されたことを示している。

 (Chandrasekaran et al.. 2020 | International Journal of Molecular Sciences)

NMNを投与した糖尿病ラットでは、細胞の『発電所』であるミトコンドリアにおける酸素利用反応が改善された。1=非糖尿病ラット;2=糖尿病ラット;3=非糖尿病ラット+NMN;4=糖尿病ラット+NMN。
科学者らは研究で、NMNが糖尿病患者の脳のNAD +の喪失を補い、認知障害と記憶に関連する脳の領域である海馬におけるニューロンの喪失を防ぐと述べている。彼らはまた、これらの結果はミトコンドリア機能の維持および細胞の健康維持に関与するSIRT1タンパク質の活性化と平行しているとも述べた。
「この研究は、糖尿病によるNAD +の枯渇を防ぐ薬剤とSIRT1を活性化する分子が、中枢神経系の糖尿病性神経変性変化に対する治療的介入を提供する可能性を示唆してている」と著者らは研究で述べた。
 
出典
情報源:
Krish Chandrasekaran, Joungil Choi, Muhammed Ikbal Arvas, Mohammad Salimian, Sujal Singh, Su Xu, Rao P Gullapalli, Tibor Kristian, James William Russel. Nicotinamide mononucleotide administration prevents experimental diAβetes-induced cognitive impairment and loss of hippocampal neurons. Int J Mol Sci, 2020; DOI: 10.3390/ijms21113756.
参照論文:
A Ott, R P Stolk, F van Harskamp, H A Pols, A Hofman, M M Breteler. DiAβetes mellitus and the risk of dementia: the Rotterdam study. Neurology, 1999; DOI: 10.1212/wnl.53.9.1937.